C87にて配布したペーパーに載せたSSです

美風先輩とリップ

美風先輩のお部屋でテレビを見ていたら、先輩がイメージモデルとして出演したCMが流れましたっ!
白い衣装に身を包んだ先輩は、男の子も女の子もどちらも使えるリップクリームで綺麗に唇をなぞり、にっこりとテレビの中で微笑む。
その神秘的な光景に、思わずうっとりしてしまいます。
先輩の頭上からは白い羽根が舞っていて、まるで天使がそこにいるみたいです。
「見惚れちゃうほどいいCMだった?」
わたしの横で同じくテレビを見ていた先輩が尋ねてきたので、力強く何度もうなずく。
「とっても素敵です……! 天使みたいでした!」
「そんなに褒められても……でも、ありがとう」
少し照れながら頬をかく先輩が、はたと思いついたようにわたしの顔を見てくる。
二つの目がじっとわたしを捉えて離さない。
どうしよう、顔になにかついてるのかな? とそわそわしていると、先輩は服のポケットに手を入れた。
そして手を出した時に出てきたのは――

「あっ、それ! CMに出てたリップですよね」
「正解」
先輩が持っているのは、今まさにCMで宣伝されていた新発売のリップクリームでした。
「唇が荒れてるみたいだから、よかったら使って」
「はっ……! ありがとうございます!」
乾燥も気になるこの季節だというのに、うっかりリップクリームを忘れたわたしの唇は少しガサガサしている。
それを指摘されてちょっと恥ずかしかったけど、純粋に先輩の気持ちが嬉しくて、リップを貰おうと手を伸ばしたのですが。

「先輩?」
「塗ってあげる」
「えっ――」
先輩の顔が急に近づく。驚いて目をぎゅっとつむると、リップクリームの蓋を外す音がして、次いで唇にひんやりとした感触。
恐る恐る目を開けると、先輩は仕上げと言わんばかりにわ、わたしの唇にキスをしてきましたっ。
いきなりそんなことをされちゃったら、びっくりします……!
「これでよし」
「い、いきなりは反則です……!」
「ダメだった? 君の唇がぷるぷるしていたから、思わずしたくなっちゃったんだ」
可愛らしく首を傾げられたらそれ以上追及もできません。
顔から一瞬で火が出そうになったわたしを見て、先輩は満足そうに笑ったのでした。