C87にて配布したペーパーに載せたSSです

カミュ先輩とキャンディ

朝からハードなスケジュールをこなし、深夜にようやく帰宅したカミュ先輩はお疲れの様子。
先ほどから甘味が食べたい……とため息と共に呟き、テーブルに突っ伏しています。
帰ってきたらまずは夜食をと思っていたのですが、先輩は何よりもまず先に甘いものを求めているみたい。
でもお菓子の類はちょうど切らしていて、先輩が食べたそうな物は残っていません。
(砂糖をそのままお渡しするわけにも……あっ)
冷蔵庫やキッチンの棚を探しに探して最後にカウンターを見た時、先日スタッフの方から旅行のお土産にもらった缶を見つけました。
蓋を開けると色とりどりな個包装にくるまれたキャンディが入っていて、見ているだけでうっとりしちゃう。
「キャンディくらいしかないのですが……」
缶の中から水色の個包装を選んで一つ取り出して、どうぞ、と先輩に差し出す。
先輩は伏せていた顔を上げてキャンディを受け取り、丁寧に個包装を破いた。
口の中へそれを放り込む優雅な仕草に見惚れていると、先輩は真顔で頷く。
「ふむ、悪くない」
そして味わうように口をもごもごさせていた先輩がふとわたしを見て手招きをした。
キャンディのお替わりかな? と首を傾げながら近寄ると。
「どれ、お前にも食べさせてやろう」
先輩はなぜかわたしを抱き寄せて、顔を近づけてきた。
「自分で食べられますっ」
「いいから口を開けろ」
顎を掴まれてしまい、言われた通りに口を開く。
食べさせるなら早く食べさせてほしいのですが、先輩はなかなか動かずにわたしをじっと見つめています。
なんだか餌付けされてるみたいと目を瞑りながら他人事のように考えていたら、唇に触れたのはキャンディではなく予想していなかった感触でした。
「ん、っ……!?」
先輩の唇がわたしの唇に重なって、ぬるりと温かいものが口内に侵入して身をすくませる。
何が起きたのか把握できないうちに先輩は離れていって、口の中には球体だけが取り残された。
口移しで食べさせられたことに気づいた時にはもう先輩は新しいキャンディを手にしていて、また個包装を破る音がした。
「……あ、おいしい」
既に小さくなっていたキャンディはあっという間に口の中で溶け、甘い後味だけが広がっていく。
「もう一つ食べさせてやろうか」
「いえ、お構いなく……!」
また口移しなんてされてしまったら、恥ずかしさのあまり爆発しちゃいそうです……!
缶をまるごと先輩に手渡し、いじわるな笑みから逃げるように背を向けて、わたしはようやく夜食の準備に取り掛かったのでした。