C87にて配布したペーパーに載せたSSです

蘭丸先輩と雑誌

十代から二十代の女性をターゲットにしたファッション雑誌、なんと今月の特集は黒崎先輩です!
見出しには老若男女に好かれるロッカー、黒崎蘭丸と太い字で書かれています。
掲載されている写真の一枚一枚から蘭丸先輩のワイルドな雰囲気が漂っていて、見ているだけでもドキドキしちゃう。
「その雑誌、買ってたんだな」
雑誌を穴が空くほど見つめていたら、わたしの横でベースのチューニングをしていた蘭丸先輩が声をかけてきました。
「当たり前ですっ。だって黒崎先輩の特集記事が載っているんですよ、これを買わずにどうするんですか!」
本人がすぐ傍にいるのも構わずに、雑誌の中の先輩に釘付けになってしまいます。
……あ、この写真素敵だなぁ。後で切り抜いてスクラップブックにまとめよう。
「わざわざ買わなくても言えばやったのに」
「いえ、気にしないでください。こういうのは自分で買ってこそですから」
お気持ちだけありがたく受け取って、穴が開きそうなほど雑誌を見つめる。
貴重なオフショットまで載っていたので、これはもう一冊、永久保存用に買ってしまうべきでしょうかと真剣に悩んでいると。

「おい」
「はい?」
隣から急に不機嫌そうな声が降ってきました。
「こっちに本物がいるだろ」
「……!!」
膝に乗せていた雑誌がばさりと床に落ちる。
気がつけばわたしは、先輩の腕の中にいました。
「本人が真横にいるのに雑誌の方に夢中になるなんて、いい度胸じゃねえか」
抱きすくめられているので表情は見えないのですが、この声のトーンはきっと良からぬことを考えている時のそれです。
慌てて先輩の腕から抜けだそうとしたけれど、男の人の腕力には敵いませんっ。
不意に抱きしめる力が弱まったので顔を上げると、すぐ近くに先輩の顔が迫っていました。
「んっ……!」
心の準備も出来ないままに口づけられ、息すらもまともに出来ないわたしに先輩が舌なめずりをする。
「雑誌なんかよりおれを見てろ」

落ちた雑誌をひょいとテーブルの上に片付け、わたしを見下ろす先輩の瞳は何よりも激しくて。
そのままわたしは、不覚にも雑誌のことを忘れちゃうくらい先輩の愛を受け止めるのに必死になってしまったのでした。