ロールキャベツ男子のススメ

わたしと梓さんは学生と社会人だから、学生同士のカップルみたいに常にメールのやり取りをしたり、放課後デートしたり、という事はほとんどできない。
その分、お互い家にいる時はなるべく傍にいたいと思っていたら、どうやら梓さんも同じことを考えていたようで。
今日のように外出する用事がないときは、同じ空間……大体は、梓さんの部屋で過ごすことにしている。
梓さんが台本と向かい合い、時には台本にペンでチェックをいれている間、わたしはその横で雑誌を読んでいた。
流行のファッションや流行のメイクアイテムに埋め尽くされる誌面を流し読み、ぱらぱらとページをめくって、雑誌の真ん中辺りで手を止める。
女性向けの雑誌といえば、大抵女の人がポーズを取った写真が載っているけれど、このページはなぜか男の人の写真がたくさん載っていた。
男性アイドルグループの特集かと思いきや、そうでもないみたいだった。
「ん……?」
【特集! ○○系男子】
そのページには、肉食系男子、草食系男子、アスパラベーコン系男子とかクリーミー系男子とか、とにかく色々な種類の○○系男子について書かれている。
アイドルから俳優、芸人まで様々な職種の男性の写真が掲載されていて、その横には目立つ書体で肉食系男子はこの人! やら、草食系男子はこの人! とある。
(最近の流行なのかな)
 肉食系男子や草食系男子くらいは知っていたけど、まさかそこまで派生しているのは知らなかった。
へぇ、と関心を持ってまじまじと雑誌を見つめていると。
「どうしたの?」
台本のチェックが終わったのか、手にしていたペンと台本をテーブルに置いて、梓さんがわたしに声をかけてきた。
「ちょっと気になるページがあって」
 雑誌を膝の上に乗せ、梓さんにも見えるように読んでいたページを広げる。そしてわたしは、特集の文字を指さした。
「梓さんはどれに当てはまりますかね」
 梓さんが手元の雑誌を覗きこんでくる。不意に近くなった距離と、漂う梓さんの香りに心拍数が上昇した。
「へぇ……肉食系や草食系っていうのはよく見かけてたけど、今はこんなに種類があるんだね」
「そうみたいです。……あっ、ロールキャベツ男子っていうのもあるんですね」
「そんなものまであるんだ。面白いね」
どんな感じなの、と聞かれて、わたしは雑誌に視線を落とし、書かれている文字を目で追っていく。
「えーと……外見は草食系で、一見大人しそう。だけど中身は肉食系で、いざという時にはがっつり来るギャップのある男性で……」
(……ん? それって)
 文章を読みながら、思い当たる人物がいるなと顔を上げる。
「それって、あず――」
 名前を言いかけた時、わたしの言葉を遮るように、梓さんの手がわたしの肩に回された。
その手はわたしを抱き寄せ、ぐっと梓さんとの距離が縮まる。
そして彼の顔が耳元に近づき、吐息の混じった甘い声で、
「まるで僕みたいじゃない?」
と囁かれ、わたしは思わず首をすくめた。
「っ……!」
 首をすくめた拍子に膝に乗せていた雑誌が滑り、音を立ててフローリングの上に落ちる。
それを拾う間もないくらいの早さで梓さんに抱き込まれ、身動きが取れなくなった。
 梓さんがわたしの頬に唇を押し当てる。頬の次は耳朶から首筋へ、今度は鎖骨、と段々口づけの場所が降りていく。
……なんだか、梓さんの纏う空気がちょっと怪しい。
この空気には覚えがある。そう、例えば……肌を重ねる直前のそれに似てる、などと考えていたら、首筋を強く吸われ喉からくぐもった声が出た。
「あの……っ」
 自分の記憶が確かなら、先週肌を重ねたばかりのはずだ。
 梓さんは外見こそクールで落ち着いた雰囲気だけど、中には熱いものを秘めている。
肌を重ねる時もすごく熱情的だから、たまにならまだしも、頻繁にされてしまうとそろそろ身体がもたない気がする。
「この前もしたのに、どうして」
 梓さんの方へ顔を向け、わたしがそう尋ねると、梓さんはなまめかしい笑みを浮かべた。
「キミを求めるのに理由なんて必要ないよ。でも、そうだな。強いていうなら、キミを思うとすぐ触れたくなるから、かな」
 そう言ってまたわたしの顔に唇をあて、キスを降らせる。
「盛っててごめん。……でも、とめられないんだ」
「ちょっとまっ、て……んっ――!」
 強引に唇を重ねられ、わたしはそれ以上何も言えなくなってしまった。
こうなった梓さんは、とめられた試しがない。

見た目はクールで大人しそうな草食系、だけど内側にはギャップを感じるほど熱いものを持っていて、時にはがっつりくる肉食系。
梓さんはまさにロールキャベツ男子そのものだ。
最初はそのギャップにとても驚いたけれど、わたしはそういうところも全部含めて梓さんが好きで、愛おしい。
だから恥ずかしくなっても少ししんどくても、求められたなら可能な限り応えたいと思う。

貪るようなキスの合間に、梓さんの手が服の袖から入り込んで肌をまさぐり始める。
わたしはそのまま、彼の熱に引き込まれるようにして、甘い世界に誘われていった――