How to smoooch!

「キスの種類……ですか?」
藍の部屋について早々、投げられた質問に春歌はきょとんとした顔で聞き返した。
「うん。何があるか知ってる?」
春歌もキスの経験と言えば藍とした以外は皆無だし、そんなことを聞かれても口ごもってしまう。
藍が座っていた椅子ごと春歌の方へ体の向きを変える。春歌が来る直前まで使用していたパソコンのモニターには、「キスの種類」というページが開かれていた。
「この前取材を受けたとき、記者に普段はどんなキスをしますか? って聞かれて」
そこで藍はため息をつき、煩わしそうに目を伏せる。
「秘密です、とは答えたけど。調べてみたら色んな種類があるんだね。いつも普通のキスしかしてなかったから知らなかった」
伏せた目を春歌に向け、椅子から立ち上がる。春歌はただならぬ気配を感じ後ずさろうとするが、後ろにはソファがありそれ以上後退出来ず藍に追い詰められた。
「キスは二人の関係を良好にするには必須ともあったから、実際に経験した方がいいと思うんだけど」
「えっと、その」
返答をする前に藍が春歌との距離を詰め、肩をがっしりとつかむ。そして答えは聞いていないとばかりに春歌に顔を近づけた。

「まず、鼻をくっつけて」
「は、はい」
藍の真剣な瞳を前に、春歌は素直に頷く。
「これはノーズキスって言うんだって」
お互いの鼻をくっつけ、こするように顔をよじる。
「どんな感じ?」
真正面から瞳を見つめられ、春歌は少したじろぎながら心情を吐露した。
「ドキドキします」
「……ボクもだよ。なるほど、確かにいつもと違うキスをすることによって刺激的な感覚が得られ、恋人同士の関係もマンネリ化しないというわけだ」
藍は考察を進め、一人で頷いている。一方で春歌は心臓がうるさい程鳴っていて、考察をするどころではなかった。
「あと、フレンチキス。これは確か、こうやって唇を合わせて、」
唇が触れた状態で話されると口元がもぞもぞするようで、春歌がくすぐったそうに目を眇める。しかし、次の瞬間藍が放った言葉に眇めた目を見開いた。
「舌をいれ……」
「えっ」
「舌を入れるんだって」
「えええ」
当たり前のように言う藍に春歌は赤面する。藍はなぜ驚くのか分からないという表情をしてから春歌に唇を押し付けた。
「春歌、口開けて」
「う……」
「早く」
藍にそう急かされるが、なかなか心の準備が出来ない。
「もう……」
春歌が口を開けるタイミングが掴めず頑なに唇を閉じていたら、生暖かいものがその上を這った。
「ふ……!?」
藍の赤い舌が春歌の唇を舐めたのだ。春歌は驚きのあまり口を開き、その隙をついて藍は自らの舌を差しこんだ。
「んっ……」
逃げそうな舌を藍の舌が絡めとる。春歌はうまく息が吸えず立っていられなくなり、ソファに押される形で倒れこむ。
「ふ、う……っ」
「ッ春歌……」
名前を呟き、春歌を見つめようとして藍は硬直してしまった。
夢中になっていて気づかなかったが、春歌の目尻には薄っすらと涙が滲んでいる。藍は慌てて春歌から体を離すように飛び起きた。
「っごめん。夢中になって、つい……」
「……いいえ、……ちょっと酸素が、足りなくなってしまって」
春歌は深く息を吸っては吐いて、吸っては吐いてを繰り返し呼吸を整える。

呼吸が落ち着いた頃、藍はまたソファに倒れている春歌の上に覆いかぶさった。
「落ち着いた? よし、じゃあ次は……」
「ま、まだするんですかっ!?」
「大丈夫、唇が腫れても今の時期ならマスクしてごまかせる」
藍は距離を元通り縮め、再び鼻と鼻がくっつきそうな程密着する。
「そういう問題じゃ、」
「いいから。黙って、ね?」
恥ずかしいからこれ以上は出来ない、という春歌の懇願は藍の唇で塞がれていった。