道の駅まで

熱い日差しの下、陽炎が立ち込める道路を歩いていた。
「わぁ、先輩方見てください! 道の駅が見えてきましたよ~」
春歌は眩しそうに手を頭上にかざし、遠方に見えてきた建物の名前を旅の供に叫ぶ。
「そんなに叫ばなくても聞こえるっての……」
すぐ後方を歩いていた蘭丸とカミュもまた、遠方に見える建物を見据えるかのように手をかざし、目を細めた。
「やっと休憩できんのか」
滴り落ちる汗を拭きながら、蘭丸が長いため息をはく。

泊まる宿へ向かうバスが丁度途切れてしまい、次のバスまで待つかどうしようかと話し合っている時のこと。
「宿までそんなに距離もありませんし、歩いて行きませんか?」
という提案が春歌から出た。タクシーが通る気配もなかった為、三人は炎天下の中、宿までの道のりをひたすらに歩いていくことにした――というのが、事の顛末である。
「たまには新鮮な山の空気を吸うのもいいですね!」
歩を進めながら春歌が振り向き、蘭丸とカミュに向かって笑顔で話しかける。
しかし話しかけられた二人は暑さのおかげでやや疲弊しているのか、春歌の言葉に反応したとしても「おう」やら「ああ」やら、相槌ばかりであった。
カミュはといえば相当暑さにやられているのか、先程から一言も発していない。
と思いきや、眉間のシワを寄せつつ、首を傾げて春歌に問いかけた。
「おい、道の駅とは一体何だ?」
春歌は一瞬きょとんとした後、そういえばカミュ先輩は海外から来たんですよね、と手をぽんと打つ。
「道の駅というのはですね、休憩所みたいなものなんです。その土地の名産品とかも売ってますね」
「名産品だと……?」
説明を受けたカミュの片眉が、ぴくりと跳ねた。
「そこに甘味はあるのか」
「あると思いますよ」
春歌は深く考えずに頷き……眼の色を変えたカミュに驚いたのか、目と口をあんぐり開ける。
「それならば、さっさと行かなければならんな」
あの元気のなさは何だったのかと聞きたくなるほどの素早さで、カミュは道の駅方面へ競歩のごとく歩き出した。
「おれも早く涼みてぇ」
うなだれていた蘭丸もカミュに続いて歩くペースを早め、春歌は気づけば二人に追い抜かされていた。
「あのっちょっと待ってくださ……きゃっ」
焦った春歌は二人に追いつこうと走り――足元の小石に蹴つまずいた。そして視界が反転し、顔に地面が近づいた瞬間。
春歌は、前を歩いていたはずの二人に抱きとめられていた。
「あぶねぇな。ちゃんと足元確認して歩け」
「まともに歩くことすら出来ないのか?」
何なら手を繋いでやろうか、とからかうように笑う蘭丸とカミュに、春歌は薄紅の頬を紅色にして頭を下げた。
「いえ、お構いなく! ……ありがとうございましたっ」
春歌が顔を上げたときには二人はもう歩き出していたが、その背は何だか優しく見えて――
今度こそ転ばぬように気をつけながら、春歌は二人の後を追いかけた。