愛しのマイガール

数週間ぶりに可愛いマイガールと重なったオフの日。
「日帰りで少し遠出をしてみようか」
そんな一言から、ぼくと春歌ちゃんは出かけることになった。

おいしいものを食べたりして、存分に休日を満喫したデート帰り。
マンションへ帰る前に海を眺めるため、ぼく達は丘の上へと向かっていた。
ここは人も車もほとんど通らないような僻地だけど、眺めだけはバツグンだというのはデート前の下調べで分かっている……
とはいえ、一応周囲に人がいないかを確認した後車から降りて、整備されていない地面の上を春歌ちゃんの手を引いて歩いて行く。
そうして目の前に現れたのは、期待した通りの絶景だった。
「サイッコーな景色だね!」
「はいっ」
丘の上から見えた景色は、見渡す限り一面の海!
いつも見ているような高層ビルとかそういったものは一切見えないから、まるで現実から引き離されたかのよう。
きらきらと輝く海面に夕日が沈んでいく様子はすごく神秘的。
隣にいるマイガールも目を輝かせてその景色に釘付けになってて、 子どもみたいにキラキラした瞳で海を見つめてる。
(それにしても、春歌ちゃんと海に来られるようになって本当によかった。休み的にも、精神的な意味でも)
しみじみとしていたら、春歌ちゃんがぼくの服の袖をきゅっとつまんだ。
「本当に、綺麗な景色で……。連れてきてくださって、ありがとうございます」
「どういたしましてっ」
夕日のオレンジ色に照らされた、彼女の細い髪が風になびく。
その姿をじっと見ていたら、今度は突然びゅうっと強い風がふいて。
ついでに湿っぽい匂いが鼻をかすめた。
「……なんか、雨の匂いがしない?」
「そういえば……」
携帯で今後の天気を調べようとした途端、頬に雨粒がぶつかる。
嫌な予感がして空を仰ぐと、まだ頭上は雲に覆われていないのに雨が降ってきた。
急いで引き返そうとしたけど、車にたどり着くまでに雨粒はどんどん大きくなってく。
(ああもうっ! 春歌ちゃんとデート中なのに、バケツひっくり返したような雨が降るなんて!)
今日一日幸せだったからバチが当たっちゃったのかな、と考えつつ、春歌ちゃんの手を引いて車の助手席へ導いた。

バタン! と大きな音を立ててドアを閉めて、ふうっと息を吐く。
空はあっという間に黒い雲で覆われちゃって、綺麗な景色は完全に隠れてしまった。
「今運転するのも危ないし、しばらくここにいようか」
天気を調べる限り、一時間程度で雨足は弱くなりそうだった。
「せっかく綺麗な格好してたのに、雨で濡らしちゃってごめんね」
「いえ、気にしないでください。お天気雨には逆らえませんから……」
今日の春歌ちゃんはデートということで普段着よりちょっとランクアップした服を着てて、可愛さは増し増し。
もちろん、普段から何を着ていても可愛いんだけど――っていうか、雨に濡れたせいで洋服が肌にぴったりくっついているし、す……透けてるっ!
このままだと、ぼくの理性がどうにかなってしまいそうだ。
急いでタオルなり何なりで隠してもらわないと。
そう頭を働かせていたら、不意に鼻がむずむずしてきて、盛大なくしゃみをしてしまった。
(早く着替えないと体が冷えちゃうな)
確か先日撮影で使ったパーカーとぼくの私服が車に積みっぱなしになっていたはずだから、ぼくは私服に着替えるとして。
あいにく大きめなタオルなんて持ち合わせてないから、春歌ちゃんにはパーカーを着てもらおう。
……別に、ぼくのパーカーを着せてイケないことしちゃおうって気はないよ?
「とりあえず着替えようか。このままだと風邪引いちゃうし」
可愛いマイガールに風邪なんか引かせちゃったらやりきれないからって、ただそれだけの理由。
「でもわたし、着替えを持ってなくて」
春歌ちゃんが困った顔でおろおろしてる。そんな顔も可愛くて、思わずにやけちゃった。
「ぼくの服でよければ貸すよ――あ、待っててね」
後部座席に積んであった服を取るついでに、念のため愛車に常備してあるサンシェードを窓にぺたぺたとくっつけていく。
車内が暗くなっちゃうけど、誰かに春歌ちゃんの着替えを見られたくないし仕方がない。
「頭のとこ気をつけてね」
運転席と助手席の間から春歌ちゃんに手を差し伸べて、自分のほうへと引き寄せる。
狭い車内だから移動するのも一苦労だ。
「はい、これ。この前撮影で使ったパーカーだけどよかったら」
「ありがとうございます」
パーカーを手渡す際、先に着替えるように促すと、春歌ちゃんはふるふるっと首を横に振った。
「嶺二先輩から、先にお着替えをどうぞっ」
「ううん、ぼくは丈夫な男の子だから後回しでも平気っ」
「でも……」
何かを言いかけた春歌ちゃんが、そこで小さなくしゃみをした。
よく見てみれば、彼女の唇は青みがかっている。
「ほら、体が冷えて唇まで色が変わっちゃってるよ」
半ば無理やりパーカーを押し付けてさっさと春歌ちゃんとは反対を向くと。
背後からもう一度ありがとうございますとお礼を言う声と、衣擦れの音が聞こえてきた。
(あ、今シャツを脱いだのかな?)
次にスカートのホックを外して、チャックを下ろす音がする。
なるべく変なことは考えないように意識を散らそうとしたけど、強制的に耳から入ってくる物音にいちいち反応してしまって。
年甲斐もなく、ドキドキしてきちゃった。


春歌ちゃんが着替え終わった後、ひとまずぼくも着替えを済ませ。
体を温められるようなものは何もない車内、彼女とできる限り密着して寄り添っていた。
「ごめんね、毛布とかあればよかったんだけど……」
「いえ、気にしないでください」
寒いのはお互い様ですし、と春歌ちゃんが微笑む。
その笑みには少し色気も混じってて、れいちゃんドッキドキ!
職業柄綺麗な女の人ならたくさん見てきたのに、春歌ちゃんだけ特別に見えるのはやっぱり女の子として好きだからかな。
歳相応に笑った顔も、今みたいにちょっと艶っぽく微笑む顔も、全部独り占めしたくなる。
色んな表情を見る度に、ああ触れたいなって思うんだよ。
「こっちにおいで」
「え?」
自分の足の間に彼女を座らせて、冷えた体を温めるように背後から抱きしめる。
これならお互いに温かいし、ただ座ってるだけよりはマシなはず。
「こうすれば、ちょっとは温かくなるよね」
「は、はい。温かいです」
ぼくに突然抱きしめられて、春歌ちゃんがドキドキしてるの、すっごく伝わってくる。
顔は見えないけど耳が真っ赤で、ああ緊張もしてるんだなって分かる。
(かーわいいっ)
初々しい反応に頬がゆるむゆるむ。こんなだらしない顔、カメラの前ではしたことない。
春歌ちゃんにこんな顔を見られたら幻滅されるかも、と思って表情をキリッとさせた次の瞬間、ぼくはこっそり喉を鳴らした。
まじまじと見てみると、春歌ちゃんの今の格好はかなりそそる。
体の大きさが違うからパーカーが全体的にだぼっとしているし、裾から覗く生足に加えて萌え袖ってオプションもついている。
萌えポイントが詰め込まれた彼女が腕の中に収まっていて、しかもこれだけ密着しているなんて――
(……うーん、まいったな)
本当に最初はするつもりなんてなかったんだけど、いい年した男だから、つい元気になってしまった。
こうなった時は、難しいことを考えてもダメ。
(なんとかして処理をしないと……なんだけど)
車内ではどうすることもできないし、何より春歌ちゃんがぼくの目の前にいる。
というかこの体勢は結構マズイ。ぼくが発情しちゃってることが、春歌ちゃんに伝わっちゃう。
(ああもう、どうしようっ!?)
心の中で頭を抱えてると、腕の中にいる春歌ちゃんが少しだけ身動ぎした。
寒さのあまり震えているのかと心配になったけど、どうやら違うみたい。
顔を覗き見てみると青みがかった唇は元通りの色になっていて、ほっぺもほんのり赤く染まってた。
(これはもしかして、気づかれてる感じかな)
ぼくに欲情されて、春歌ちゃんも興奮しちゃってるの? と様子を伺ってみる。
思った通り足をもじもじさせているのを確認したら、我慢しようとしてたのに手を出したくなってしまった。
「春歌ちゃん? どうしたの」
わざとらしく声をひそめて尋ねてみる。春歌ちゃんはぴく、と肩を跳ねさせた後、案外あっさり白状した。
「……先輩のそばにいると、胸が苦しくてっ。それに、さっきから……腰に、あの……」
うん、だよね。やっぱりこれだけくっついてたら、さすがにバレちゃうか。
開き直って、春歌ちゃんのうなじへ顔を寄せる。
「ぼくに抱きしめられて、ドキドキしちゃった?」
耳元で囁いて、ついでに柔らかな耳たぶを軽く食むと、春歌ちゃんの体がビクッと跳ねた。
「……ねぇ、してもいい?」
「え……車の中で、ですか……?」
「本当は、ふかふかのベッドの上で君を抱きたいんだけどね」
直接抱きたいと言ったら、彼女が面白いほどに頬を赤くしたものだから、性欲はより強まった。
この雨じゃろくに移動もできないからホテルにも行けない。
かと言って、うちへ帰るまでお預けにするのは、キツい。
「春歌ちゃんが嫌なら、やめるよ」
「う……」
「どうする?」
その気を引き起こすように、ふとももを手のひらで撫で回す。
ついでに内腿を指でなぞって、ふうっと耳に息を吹きかけてみた。
「っ……!」
(ここまでして拒まれないってことは、続きをしてもいいってことだよね)
返答を待つよりも先に、弄るとすごく可愛い反応が返ってくる場所へ手を伸ばす。
下着の真ん中辺りに触ってみると、そこはすでにしっとりしていた。
「ん、ふ、ぅ……うっ」
声を抑えるみたいに手で口を塞いでいる春歌ちゃん。
そんなことしたら、雨音も激しいから余計に声が聞こえなくなってしまう。
もっと君の可愛い声を聞かせてよ。
「ダメだよ、声抑えちゃ」
「っでも……!」
「外には聞こえないよ」
そう囁いて、春歌ちゃんの手を無理やり口元から引き剥がすと、
「先輩……」
春歌ちゃんが振り向いて、うるうるした瞳でぼくを見上げてきた。
彼女の唇に人差し指をあて、首を傾げてみる。
「ねぇ、おねがい。名前で呼んで?」
「嶺二せんぱ……」
指先で唇をなぞり、違うよと首を振る。
「先輩、じゃないでしょ」
「……嶺二、さん」
「よくできました」
ご褒美と言わんばかりにキスをしてから、ぼくはジーンズの下でキツそうにしていたそれを開放した。
そして財布に忍ばせておいた例のブツを取り出し、さっと装着して。
狭いから頭をぶつけないように注意を払って、春歌ちゃんを自分の上にまたがらせた。
「そう、……っゆっくりでいいから、腰を下ろして」
下着をずらして屹立した自身をヌルヌルした中へ埋めていくと、ぼくの肩をつかむ手に力が入る。
(ちょっと狭いな……)
いつもより中が狭いのは、きっとこの特殊な環境が関係してるんだろう。
正直いって、ぼくもいつも以上に興奮してる。
だって周囲に人がいないとはいえ、車内だし、ドアを一枚隔てた場所は外だし。
ベッドでするのもいいけど、たまにはこういうのも刺激的でアリかも。
「……っふ、ぁ……っ」
春歌ちゃんの細い腰を両手で掴んで、下ろしていく。
はち切れそうになっているモノがぬるりと包まれるのが気持ちよくて、息が詰まりかけた。
全部中に入ってから、春歌ちゃんの腕が首に回されてきて、ぎゅっとしがみつかれる。
あ、そんなにうるうるした瞳に見つめられたら、理性なんて飛んじゃうよ。
(可愛いなあ、本当に)
この体勢だと繋がってる部分が見えないのが残念だけど、それはまた今度見せてもらうとしよう。
背もたれに背を預けて軽く腰を揺らしてみると、ぐちゅっと淫猥な音がすると同時に、春歌ちゃんの表情が歪められた。
「っ、やぁ……」
「嫌なの? やめようか?」
「ちが……っ!」
ゆっくりと腰を動かしながら、わざと焦らす。
うんうんっ、嫌じゃないって分かってるよ。
でも、こうすると可愛いマイガールが更に照れちゃうのが可愛くて可愛くて、つい。
なだめるようにまなじりに浮かんだ涙を舐めとって、春歌ちゃんの目を覗きこんだ。
「じゃあ、続けるからね」
「……っはい……」
吐息たっぷりな返事に微笑みを返して、腰の動きを再開させる。
「ちょっと暗いから、春歌ちゃんの顔が見えないのが残念。……っていっても、する時はいつも室内を暗くしてるから変わらないか。
今度は電気を全部つけてしてみよっか?」
「えっ――それは……ぁっ、はずかしい、……っんぁ!」
いきなり腰を突き上げれば、言葉の途中で喘ぎだす声。
ぐちゅぐちゅという水音と春歌ちゃんの嬌声が重なって、熱く滾ったそれは嵩を増した。
こんなにやらしいことをしちゃってるけど、今すごく幸せだ。
「――うん、良いなぁ」
「っ……なにが、ですか?」
「可愛い彼女と一日一緒にいるだけじゃなく、こうして体まで繋げられているなんて、幸せだなって」
体を繋げている最中なのに、呑気にそんなことを話す。
「わたしも、幸せ、です……っ」
喘ぎながらも真摯に返事をしてくれる、そんな君が大好き。
春歌ちゃんの肩へ顔を埋めてみると、自分のパーカーの匂いと、彼女の香りが混ざって不思議な気分になった。
中をかき混ぜるみたく強く腰を動かして、感じる場所を集中的に突くと、春歌ちゃんの声はもっと淫らに大きくなって。
「は、あ……あっ、あ!」
「……っそろそろ、イッちゃいそうだね」
「ん、う……ッ――」
肩に爪を立てられ、ぴりっとした弱い痛みが服越しに伝わる。
うわ、そんなきゅうきゅうに締め付けられちゃったら、もう限界っ!
「春、歌……!」
ぼくは大好きな春歌ちゃんの中へ白い欲望を吐き出して、ぐったりと二人、寄り添った。

***

事後の処理を済ませて、春歌ちゃんの髪の毛を撫でる。
「雨、おさまってよかったですね」
「そうだねぇ」
あれほど酷かった雨も予報通り一時間ほどで弱まっていた。
最初は服は濡れちゃったし残念だなって思ってたけど、晴天だったらこんなことできなかっただろうから、ちょっとラッキーだったかも。
雨降って地固まるってやつ? なーんて、それはまた違うか。
予想外の雨だったけど、一日マイガールと過ごして幸せだったのは変わりない。
(というか、春歌ちゃんと一緒なら晴れでも雨でも一緒にいるだけで幸せなんだろうなぁ)
君が傍にいて笑ってくれたり、可愛い顔を見せてくれるだけでぼくはこんなにも幸せ。
そういえば、最中の顔もすっごく可愛かったなぁ……と、考えていたら。
「……あ。もう一回したくなっちゃった」
「へっ……!?」
春歌ちゃんが驚いて、目を大きく開く。
あいかわらず、驚いた表情も可愛いな。
「帰ったらもう一回しよっか?」
「え、遠慮しておきますっ恥ずかしいのでっ」
「はは、今更恥ずかしいことなんてないよ」
君の体は上から下まで全部知ってるしと言うと、春歌ちゃんは真っ赤になって撃沈。そっぽを向いてしまった。

真っ赤になって照れた顔も、ちょっとむくれた顔も、笑った顔も。
すべてが可愛くて、愛おしい。